悩みを引きずらない技術
―思考の反芻を断ち切る―

1.思考の反芻とは

これは、つらい出来事(やイメージ)が頭について離れなくなり、何度も頭の中で再現されてしまう状態のことです。

ストレスフルな出来事があると、そのことを引きずってしまう方は少なくありません。

別に今、目の前で起きていることではないのに、つらかった場面を思い出して、その苦しさを何度も「再体験」してしまうのです。すると、そのたびにさらにダメージを受け、心身の負担が積み重なっていきます。

また、反芻思考は過去のことだけに限りません。

まだ来てもいない先のことについて、「またこんなことが起きるのではないか」「「こんなことを言われるのではないか」などと想像して不安になり、そのことでさらに消耗してしまうこともあります。

このように、過去を繰り返し再生したり、未来の不安を頭の中で膨らませたりすることで、つらさが長引いてしまうのです。

さらに、実際には起きていないことまでイメージしてしまう場合もあります。

たとえば、言われていないこと、されていないことまで頭の中で思い描き、あたかもそれが現実に起きたことであるかのようにダメージを受けてしまうことがあります。

こうした状態が続くと、事実とそうでないこととの区別が曖昧になり、記憶の歪みのようなものが生じることもあります。

何度も頭の中でイメージしてしまい、その都度つらい思いをする。

また同じような目に遭うのではないかというイメージが浮かび、そのことでさらにダメージを受けてしまう。

そのような現象を、「思考の反芻」「ぐるぐる思考」などと呼ぶことがあります。

それでは、この反芻思考にやられてしまわないためには、どうしたらよいのでしょうか。

以下で、そのための考え方と方法について解説します。

2.気づく、「今、ここ」に帰って来る、自分の思考と距離を取る

1)まず、「ああ、また考えすぎてしまっている」と気づく

最初に大切なのは、「ああ、また考えすぎてしまっているな」と気づくことです。反芻思考は、気づかないうちに始まり、気づかないうちに深まっていきます。

まずは自分の状態に気づくことが、断ち切るための第一歩になります。

2)次に、<今、ここ>に戻って来る

脳は、時に持て余すほど高機能な臓器です。放っておくと意識は簡単に<今、ここ>を離れ、過去や未来、別の場所へとさまよってしまいます。反芻思考に巻き込まれすぎないためには、意識を<今、ここ>に戻すことが大切です。

そのための方法をいくつか挙げてみましょう。

  • 「あー」と声を出す
    脳の特性上、同時に複数のことに注意を向けることは難しいので、声を出すと、思念/浮かんでいたイメージと距離を取りやすくなります。すると、浮かんでいたイメージを現実のように感じてしまう、自分の考えを真に受けてしまう、という状態を切りやすくなります。
  • 伸びをする
    両手を頭の上に組んで、体を上に伸ばす、そこから左右に側屈する。イメージの世界にフォーカスするのをやめ、<今、ここ>に属するものである「からだ」の感覚にフォーカスしましょう。
  • 上を見る
    これだけで反芻思考を断ち切ることができる人もいます。とても簡単な方法ですね。
  • 「実況中継」をする
    「私は今、〇〇している」と声に出してみます。
    「ただただ、〇〇する」と声に出すのもよいでしょう。
    〇〇には、掃除する、歩く、味わう、呼吸する、などの言葉が入ります。
    もし歩いているときなら、左右の脚が出るのに合わせて「左、右、左、右」と声を出すのも一つの方法です。単純作業をしていると、意識にゆとりが生じ、そこに反芻思考がどんどん湧いてきてしまうことがあります。そのようなときは、こういった方法で認知に負荷をかけて、反芻思考が生じる空白を埋めてみましょう(そのような意味では、音楽を聞く、動画を見るなど受動的にできる方法も有用です)。
  • 今日の日付や、今いる場所を口に出して言う
    「今日は何年何月何日何曜日です。あの事があったあの場所ではありません。」と自分に話しかけてあげましょう。「何日」というあたりで、<今、ここ>に戻って来るのを実感できるかもしれません。

ここに共通しているのは、<今、ここ>に意識を戻すということです。「マインドフルネス」という瞑想法がありますが、<今、ここ>にある体の感覚にフォーカスして落ち着きを取り戻す、という一面があります。

3)頭に浮かんだ考え(やイメージ)と距離を取る

脳には、その重要なエネルギー源であるグルコース(ブドウ糖)の消費を抑え、効率よく働こうとする性質があります。

この「省エネ志向」と一致する脳の働きとして、複雑な出来事をありのままに扱うのではなく、既存の枠組み(スキーマ)に当てはめたり、因果関係のある「物語」として再構成したりすることで、世界を単純化して理解しようとする傾向があります。

また、思考は気分の影響を強く受けます。気分が沈んでいると、省エネを優先しがちな脳は、物事の中からネガティブな要素を、「色眼鏡」で見るように拾い出し、それらをつなぎ合わせて、悲観的な物語を作り出してしまいます(一方で、不安や脅威を強く感じているときには、現実を正確に見るというよりも、自分を守るために一貫した説明や、自分にとって都合のよい解釈を作り出してしまうこともあります)。

ですので、つらい考えが次々に浮かんでくる時には、今日の自分の脳は、こんなお話を生み出しやすいコンディションなのだな、と捉えてみることをお勧めします。ある意味、天気のようなものだと捉え、浮かんできた考えやイメージを突き放す、真に受けない、という姿勢が役に立ちます。

また、脳は、現実とイメージの世界を区別するのが苦手です。実際には起きていないこと(言われていないことやされていないことなど)もイメージしてしまい、あたかもそれが起きたことのようにダメージを受けてしまうことがあります。

事実とそうでないことの区別が曖昧になるといった記憶の歪みが生じる場合、これを避けるためには、「実際に起きたことは何だったか」「事実として確認できることは何か」と意識的に立ち返ることが有効です。

思考の反芻を断ち切るのは容易ではありません。「そうは言ってもまた考えてしまう」と感じる方も多いでしょう。自分に影響を与える重要なことなのですから、ふとした瞬間につい思い浮かぶのは当然です。ただ、「考え続ける」をそのまま続けるかどうかは、毎回選ぶことができます。考えすぎて自分を追い込んでしまうことを、少しずつでも避けていきましょう。

3.つらい状況を、いつ、どのように取り扱うか

悩み事にどっぷりと浸って必要以上にダメージを受けてしまわないためには、「夜に考え事をしない」という工夫をお勧めします。夜、特に眠る前に、嫌な出来事や、今後の不安が浮かび、もやもやと考え続けてしまって眠れなくなる――このような経験をされる方は少なくありません。

夜は、明るい昼間のような現実的な刺激が少なく、イメージが広がりやすい時間帯です(創作活動には適している面もあります)。

そのため、考えが現実以上に膨らみやすく、つらさが増幅されてしまうことがあります。

こうした特徴を踏まえて、「夜には考え事をしても無駄」と自分に言い聞かせ、思考を一度断ち切ることも有効です。

一方で、つらい状況をどう乗り越えるかを考える際には、明るい昼間の時間帯のほうが適しています。

昼間は、さまざまな現実的な感覚の入力があり、その手応えを感じながら、物事を俯瞰して、バランスよく検討することができます。合理的に、総合的に判断するには、頭がスッキリしている時間帯のほうが向いているのです。

その時に試していいただきたい方法をご紹介します。

エクスプレッシブ・ライティングと、タイムアウト法の組み合わせです。

1)エクスプレッシブ・ライティング

大きめの紙、例えばA3の紙を用意します。これを横にして、右利きの方であれば、紙の左下から、頭の中にふわふわと思い浮かんでくることを書き出します。

この、下から書くということが大事で、紙の上から書くと、「論理的でなくてはならない」「箇条書きでなくてはならない」といった意識づけが生じやすいので、下から、木が自由に枝を伸ばしていくように書く、というイメージでしていただくとよいと思います。

一つ書き出すと、意識にゆとりが生まれ、新たなことが一つまた一つと思い浮かんできますので、これを線で繋いで、木の枝が伸びていくように(上へ)どんどん書き足していきます。

そういえばこんなこともあるな、と別のことを想起したら、それをまた別の枝にして伸ばしていきます。

これを続けていくと、問題の状況の全体を俯瞰しやすくなります。部分部分でもやもや、ぐるぐると頭の中で繰り返し再生していたことの全体像が見えるようになります。

そうすると、「自分の悩んでいたことって、全体としてはこういうことなのだな」という気づきが得られやすくなります。大きな枝/塊ごとに、「どちらかといえばこちらの方が大事だな」といったメタ認知が生じるかもしれません。すると、自分にとって比較的大事でない方はこの際無視しよう、といった決断もしやすくなるかと思います。

さらに、結局今できることはなにか、今優先的にすることはなにか、という「行動」に落とし込んで書き添えることをお勧めします。するとその後、生活の中でふと同じぐるぐる思考が生じてきたときに、「あ、この悩みごとの結論は、結局こうすればいいということだったな」と、漠然とつらいイメージを再生する過程をショートカットでき、心身のゆとりを削らずにすむことにつながります。また、結論であった、優先すべき行動を起こすことで、「自分は問題の状況に対してなすべきこと、今できることをやっているのだからそれでよし」ととらえ、自分を責めて無駄に心身のゆとりを削るようなことをやめて、(もし今は困った状況が打開できなくても)むしろ可能な範囲で適切に対処している自分を認めてあげることができるようになるとなおよいと思います。「こんな状況で耐えている自分/大人の対応をしている自分/適切な対処をしようとしている自分/やるべきことに一つ一つ取り組んでいる自分、めちゃくちゃ偉いな!」とまとめてしまうのもよいと思います(「語り直せること」は、私が好む「健康の定義」の一つです)。

書き出したものは画像として残しておいて、必要なときに見返せるようにしておいてもよいでしょう。また、画像に保存した上で、「これは処理済み」というメッセージを自分に対して送る儀式として、書き出した紙を丸めて捨ててしまうのもよいと思います。

なお、エクスプレッシブ・ライティングは、悩みごとの整理だけでなく、「休日をどう過ごすか決める」「どの商品を買うか選ぶ」「なにを食べるか決める」といった日常的な意思決定にも有用な方法です。

2)タイムアウト法

エクスプレッシブ・ライティングをする際、これから10分間、思いっきり悩むぞ!と決めて取り組んでみてください。中途半端にもやもやと悩みつづけ、堂々巡りを繰り返し、ダメージを受け続けるのではなく、一旦思いっきり悩む方に振り切って書き出してみるのです。すると、「1日中悶々としていたが、書き出してしまうと意外と早く終わってしまったな、この程度の時間で俯瞰できてしまうものなのだな」という気づきが得られ、エンドレスな思考と距離を取ることが容易になります。