睡眠の質を上げるために
まず取り組んでいただきたいこと
ストレスによる悪循環のステップ
ストレスへの一時的な反応から徐々にうつ病に至る過程において、しばしば次のような悪循環がみられます。
- 夜に嫌なことを考えはじめ、止まらなくなる
- リラックスできないまま布団に入るため、よく眠れず、疲労が抜けにくくなる
- 日中コンディションが悪くなり、注意力や集中力が低下する
- ミスが増える、トラブルになる、叱責されるなど新たな「嫌なこと」が加わる
- 思考の反芻がさらに強まり、精神的なダメージが増幅する
- 文字が読めなくなる、人の声は聞こえていても内容が頭に入らなくなる、計算できなくなるなどの症状が加わり、ミスが生じないよう取り繕うので精一杯になる
- 自分で自分を信じられなくなり、自尊心が低下する
こうした悪循環を早めに断ち切るためには、その時々にできる取り組みを積み重ねることが大切です。
「寝逃げ」という言葉がありますが、さまざまな対処の中でも、とにもかくにも睡眠によって神経を休ませ、日々の回復を図ってゆくことは優先度の高い取り組みです。眠れない状態が続くと、よくなるはずもものもなかなかよくなりません。
そこでまずお勧めしたいのは、睡眠の質・量・リズムの改善を目指す取り組み、すなわち「睡眠衛生」です。
根拠に基づいた基本を大切にする
眠れない、とおっしゃる方の中には、基本的な取り組みがまだできていない方や、実は睡眠に悪い習慣があるのに、それにお気づきでない方が少なくありません。 厚生労働省が公開している『健康づくりのための睡眠指針2023』は、こうした点を考えるうえで参考になる、根拠に基づいた基本的な資料です。もともとは、特に働く世代の睡眠の質向上を重視して2014年に策定された指針で、2024年2月に10年ぶりの改訂が行われました。
(ダウンロードはこちら▷ 健康づくりのための睡眠指針2023 )
まずはこのような骨太な基本を大切にしていただきたいと思います。まずはこの指針の23ページから33ページを中心にご覧いただき、ご自身の生活に取り入れられる工夫を探してみて下さい。その上で、ご自身に関係する他のパートを参考にされると効率よく活用できます。
お薬を上手に活用するという選択肢
ただし、自分に合った方法を見つけるには、ある程度の学習や試行錯誤、そして時間と労力が必要です。不調時には文字を見ること自体がつらいこともあります。そのように、睡眠衛生に取り組む余裕がない場合には、睡眠を助ける薬を上手に、短期的に利用することが助けになることも少なくありません。
「薬は依存しそうで怖いので飲みたくない」「知人が薬漬けになっているのを見たので使いたくない」と言う方もおられます。
ストレスへの反応として生じてきた症状に対する一番の「くすり」は、ストレス状況が解消することです。すでにストレス状況が解消している方については、薬を使わず経過を見ることもあります。しかし実際には、ストレス状況の解消が望めない方も少なくありません。病状の悪化を食い止めるために、可能なあらゆる手立てを組み合わせていただきたいのですが、ストレス状況が変わらなくても自分の意思で実行でき、適切に用いれば睡眠の質の改善が期待でき、特別なスキルを必要とはしない薬物療法は、当面の有力な手段の一つといえます。
当院では、睡眠薬や抗不安薬を主な対象とした「処方薬減量外来」も行っており、無用な長期漫然処方は厳に慎んでいます。あくまでも適正な範囲での薬物療法を行っておりますので、安心してご相談下さい。
この記事では、不眠に対してまず取り組んでいただきたいこととして、睡眠衛生をご紹介しました。睡眠衛生の長所としては、取り組みやすいことが挙げられます。一方で、非薬物療法の中で、不眠に対する効果について最も根拠があるとされているのは、認知行動療法です。これについては、診察の際に担当医にお尋ね下さい。