MBC
(Measurement-Based Care)
について

― 「よくなった」を確かめながら、よりよい医療をつくる

MBCとは

心療内科や精神科の診療では、「眠れるようになった」「気持ちが少し楽になった」「仕事に集中できるようになった」など、患者さんのさまざまな変化を大切にしています。

しかし、回復の過程は必ずしも一直線ではありません。調子のよい日も悪い日もあり、少しずつ起こっている変化は、自分でも気づきにくいものです。

そこで、私たちが取り入れているのが、MBC(Measurement-Based Care:測定に基づく医療)という考え方です。

MBCとは、患者さんの症状や生活の状態を、診察でのお話に加えて、標準化された質問票などを使って継続的に測定し、その結果を診療に生かしていく取り組みです。

大切なのは、単に数値を記録することではありません。患者さんと医療者が変化を一緒に確かめ、これまでの取り組みを振り返り、今後の治療をよりよいものにしていくことがMBCの目的です。

当院でのMBCの進め方

GOOD CONDITION CLINICでは、問診票に回答いただく際などに、患者さんの状態に応じて、次のような質問票への回答をお願いしています。

  • PHQ-9(うつ症状の評価):気分の落ち込み、興味や喜びの低下、睡眠、食欲、疲労感、集中力などについて確認します。
  • WPAI(仕事や日常生活への影響の評価):健康上の問題による欠勤・休業、仕事中の生産性の低下、仕事全体への影響、日常生活の活動への支障などを確認します。

質問票は、多くの場合、数分で回答できるものです。「この2週間でどのくらいの頻度で当てはまりましたか」といった選択式の質問や、時間・程度を尋ねる簡単な質問が中心で、難しい記述は必要ありません。

なお、回答は任意です。無理のない範囲でご協力いただければ十分です。 体調がすぐれないときや、回答が負担になるときには、無理に答えていただく必要はありません。

また、質問票の点数だけで診断や治療方針を決めることはありません。数値は、患者さんのお話や診察で得られる情報を補うためのものです。

なぜMBCが役立つのですか?

① 変化に気づきやすくなります

調子は日によって波があり、診察の場で振り返ると、直近の印象に引きずられがちです。

数値で経過を追うと、「少しずつよくなっている」「実は横ばいが続いている」といった変化が分かりやすくなります。

自分では気づきにくい小さな改善を確認できることも、治療を続ける励みになります。

② 診察での話し合いが具体的になります

「眠れていますか」「気分はどうですか」という大まかなやり取りだけでは、伝わりきらないことがあります。

質問票があると、「この項目が特につらいのですね」「気分は改善していても、仕事への影響はまだ大きいようですね」といったように、気がかりな点を具体的に取り上げやすくなります。

限られた診察時間を、患者さんにとってより大切な話題に使う助けにもなります。

③ 治療の見直しを適切な時期に行えます

薬や治療法の効果は、すぐに分かるものばかりではありません。

数値の推移を参考にすることで、「もう少し様子を見てよい時期」と「治療を調整したほうがよい時期」を、患者さんと医師が同じ情報をもとに考えやすくなります。

十分な改善が得られていないことに早めに気づき、必要な見直しが遅れるのを防ぐ助けにもなります。

④ 研究でも効果が示されています

これまでの研究では、症状を定期的に測定して治療に反映することにより、通常の診療と比べて、うつ症状の改善や寛解(症状が十分に軽くなった状態)につながりやすいことが報告されています。

ただし、研究によって結果には違いがあり、すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありません。

MBCは、それ自体が治療というよりも、治療をより適切に進めるための仕組みです。

医療の「価値」を高めるために

私たちは、医療の価値を次のように考えています。

健康上のアウトカムとは、患者さんがどのような領域で、どの程度よくなったかという、医療によって得られた成果のことです。

一方、社会のトータルコストとは、医療費だけでなく、患者さんや周囲の方々、医療関係者、関係機関などが費やす費用、時間、労力などを含みます。

私たちが目指すのは、単に費用を抑えることではなく、社会全体の負担に対して、できるだけ大きな健康上の成果を生み出す医療です。

そのためには、医療者だけでなく、患者さんやご家族、職場、関係機関などが、サッカーチームのメンバーのように、それぞれの立場から力を発揮し、患者さん一人ひとりのゴールに向かって協力することが大切だと考えています。

私たちは、そのチームワークを支えるために、MBCを含む独自の医療評価システムを活用し、どのような取り組みが回復に役立ったのか、誰がどのような形でよい結果に寄与したのかを、できるだけ明らかにしていくことを目指しています。

それは同時に、医療に関わるスタッフの一人ひとりが、自分のしたことがどのような結果につながったのかに真摯に向き合い、自らの仕事を振り返ることでもあります。

MBCは、私たち医療者自身が学び、医療の質を改善し続けるための仕組みでもあるのです。

数字だけでは見えないものも、大切に

もちろん、人の回復を数字だけで表すことはできません。

症状の点数が同じでも、生活の充実感や、できるようになったこと、これから実現したいことは、人によって異なります。

また、症状が残っていても、自分なりの生活を取り戻し、充実した日々を送れるようになることも、大切な回復の形です。

数字は患者さんを評価するためではなく、患者さんのことを、よりよく理解するためのものです。

私たちは、一人ひとりの思いや目標を大切にしながら、回復の過程をともに確かめ、その結果から学び続ける医療を目指しています。